適切なバランス? シンガポール証券取引所がSPACに関して規則改定案を提案

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序論

2021年4月13日、Grabホールディングス株式会社が、特定買収目的会社(SPAC)Altimeter Growthと 3960億米ドルで合併することによりナスダック証券取引所への上場を検討していると発表したことが大きく報道されました。SPACによる合併では現時点で最大となります。この取引はSPACの上場と合併に向けられた大きな関心に沿うものであり、2021年3月9日時点で本年のSPAC関連の取引は世界全体で1700億米ドルに上り、昨年の総額1570億米ドルを既に上回っています。South Morning China Post は米国で上場 したSPACとの合併により株式公開化を模索している東南アジア最大のテック企業をさらに複数報じており、アジアの証券取引所はSPAC上場に関する検討を迫られている状況です。2021年3月31日、シンガポール証券取引所(SGX)は、SGXのメインボードにSPACを上場させることに関して規則の改定案(SGX改定案)をパブリックコメントに付し、市場からのコメントを求めています。パブリックコメントは2021年4月28日までの期限が設定されています。

SPACとその利点

白紙式小切手会社とも言われるSPACは、経験豊富な投資家(もしくは資金提供者)たちによって設立された特別目的会社であり、株式公開を通じて資金を集め、既存の未上場企業もしくはその事業(当該企業及びその事業を併せて「ターゲット」とします。)を買収もしくは合併することを唯一の目的にしています。SPACの株式公開時に投資した株主は、資金返還請求権の付帯した株式や新株予約権を発行されます。そしてSPACの経営陣や資金提供者の実績や専門性を信頼して投資を行います。株式公開時に集められた資金の大半はエクスロー口座に預けられます。

資金調達後、資金提供者はターゲットと買収もしくは合併をしてターゲットを公開化(「企業結合」とも言われます。)するまでの一定の期間を設定されます(通常、株式公開から2年間)。買収や合併はIPOで調達した資金で賄われ、株主総会の承認が条件となります。企業結合によって、資金提供者はSPAC(もしくは企業結合後の株式発行者)の株式(通常20%に達する株式)を名目的な対価で受け取ります。もし、適切な取引を一定期間内に確保できなければ、エクスロー口座の資金は株主に償還されます。

ターゲットにとって企業結合による株式公開には以下のメリットがあります。

  • SPACによる合併は、通常、従来のIPOよりも迅速かつ低コストであり、取引の柔軟性が高い。
  • SPAC合併プロセスは、SPACとターゲットが直接交渉することにより、従来のIPOにおけるブックビルディング方式で決まる最終的な公募価格やそれに基づき資金を集めることに関する不確実性が排除され、市場及び価格の確実性を高める。
  • 企業結合後、ターゲットは、経験豊富なリーダーシップや戦略的ガイダンスを提供できる資金提供者との戦略的な提携関係を構築できる。

SPACに関連して、SPACの株式公開は、SPACが事業ヒストリーや運営歴、資産を有しないことから、従前の株式公開よりも比較的簡便かつ迅速です。そのため、SPACの株式公開では、過去そして現在の事業活動に関連した専門的なデューデリジェンスや目論見書の開示を比較的少なく済ますことができます。さらに、SPACの株式公開では、従前の株式公開におけるロードショーのように、投資家が会社の事業内容を精査する長期化しがちな過程も必要ありません。

そしてSPACのはらむリスク

以上のようなメリットがある一方で、SPACの上場や合併の過程にはリスクがないわけではありません。まず、株主のうち企業結合後の発行者の株式を保有し続ける者は、大幅な希薄化に直面します。株主は、企業結合後に株式公開時に発行された新株予約権を行使して、企業結合後の発行者の新たな株式を取得することができます。株主はまた、企業結合に関して株主総会で賛成票を投じたとしても、株式を償還して現金にすることもできます。(新株予約権を分離して保有できる場合、株式を償還した後も)企業結合には経済的に貢献していないにも関わらず、新株予約権を行使することで価値上昇の余地のある株式を保有することができます。米国証券取引委員会は、SPACの初期の投資家に発行される新株予約権は株式とはみなされず、会計上は負債となる可能性があるという新たな指針を発表し、SPAC関係社に水を差しました。

これとは別に、ターゲットが株式公開時点では特定されておらず、投資家は資金提供者の実績のみに依ってSPACへの投資を決定します。企業結合に関する株主総会の承認が得られないリスクや、適切なターゲットを見つけられない、もしくは設定期間中に企業結合を完了できないといった実務上のリスクもあります。

最後に、企業結合の完了を急ぐあまり、資金提供者は理想的とはいえないターゲットに決定したり、株主にとって好ましからざる条件で合意しかねないおそれもあります。

SGX改定案における提案

上記のようなリスクを軽減し、投資家の利益を守ると同時に、市場の資金調達需要に応えるため、SGXは幾つかの提案のなかで、とりわけSPACに関して以下のような要件を提案しています(概要は以下のとおり)。

上場基準の追加

  • 時価総額:SPACは、株式公開時の発行価格と株式公開後の発行を併せた発行済株式資本に基づき、最低3億シンガポールドル(SGD)の時価総額を有していなければならない。
  • 市場における流動性:株式公開時に500人以上の一般株主がSPACの発行済株式総数の25%以上を保有すること。
  • 発行価格:SPACの株式の最低発行価格は1株あたり10SGDでなければならない(従来のSGXメインボード上場に向けた証券の最低発行価格は0.50SGD)。
  • 設立地:SPACはシンガポールで設立されなければならない。
  • 複数議決権:種類株式の発行:SPACは株式公開時に種類株式の発行はできない。

企業結合要件

  • 企業結合にむけた期間設定:企業結合は、特別な事情がない限り、株式公開日から最長36ヶ月以内に完了しなければならない。
  • エスクロー口座:株式公開時に集めた資金の90%以上を企業結合完了までの間、エスクロー口座に預け、企業結合に反対した株主やSPACの清算時に比例配分で返還しなければならない。
  • エスクロー口座の資金額に応じたターゲットの公正な市場価値:企業結合は、ターゲットの最初の買収であり、その対価となる市場価値はエスクロー口座に預けられている金額の80%以上とならなければならない。
  • 企業結合の承認:企業結合は、独立取締役の単純多数の承認と、独立株主の普通決議による承認を必要とする。
  • 財務アドバイザーおよび独立評価人の任命:SPACは、企業結合に関する助言を行うために、発行管理者である財務アドバイザーを任命する必要がある。またSPACは、ターゲットの価値を評価するために、独立評価人を任命する必要がある。
  • 企業結合に関する株主に対する委任状勧誘書類における開示:企業結合を承認するための株主総会にむけた委任状勧誘書類には、(a)財務及び経営の状況、(b)次期取締役と経営陣の特性やインテグリティ、(c)事業運営に必要な重要なライセンス、許可、承認を含む、目論見書レベルの開示が含まれなければならない。
  • 新規上場要件:企業結合後の発行会社は、メインボードの新規上場要件を満たさなければならない。

設立時の株主、経営陣、支配株主に関する要件

  • 株式引受に関する最低要件:設立時の株主や経営陣は、SPACの発行する株式の「最低総額」を引き受けなければならず、最低総額は株式公開時のSPACの時価総額に基づいて決定される。例えば、SPACの時価総額が3億~5億SGDの場合、最低総額は1,000万SGDとなる。その結果、最低でも1.5%から3.3%の株式を保有することになる。
  • 待機期間:主たる関係者(設立時の株主、経営陣、支配株主およびその関係者を含む)は、SPACの株式公開から企業結合までの間、および企業結合後6カ月以内は、保有する株式の譲渡・処分を停止することが求められる。

投資家保護のための手段

  • 償還請求権:企業結合に反対票を投じた独立した株主(independent shareholder)にのみ、 普通株式を償還する権利が付与される。
  • 清算分配権:SPACは、(a)設定期間内に企業結合を完了できなかった場合、または(b)SPACの設立や企業結合の完了に不可欠な設立株主・経営陣に関して、そのプロフィールの重要な変化が設立や企業結合の完了前に生じた場合、独立株主がSPACの上場継続を特別決議で承認しない限り、清算される。SPACの清算時には、エスクロー口座の資金は、すべての独立した株主(independent shareholder)に比例配分され、SPACの株式公開後に生じた株主資本については、設立株主、経営陣およびその関係者に分配される。
  • 新株予約権の分離不可:株式公開時にSPACの普通株式とともに発行される新株予約権(またはその他の転換社債)は、SGXにおける取引において普通株式から切り離せないものであること。

結論

SGX改定案における提案は、SPACそれ自体やその資金提供者、潜在的なターゲットの質を確保することで投資家の利益を保護し、SPAC上場やその合併に関する懸念に対処しようとしています。しかし、この提案された規則が、SPACの元来有していた魅力を目減りさせないかは定かではありません。この規則改正によって、メインボード上場の要件(特に、比較的高い3億シンガポールドルの時価総額、10シンガポールドルの最低発行価格、IPOの最低価値(最低1,000万シンガポールドル)を引き受けることによって創業者が自己資本を投じることを維持するといった条件)を満たさない潜在的なターゲットと企業結合を行うことを制限する可能性があるとのコメントも聞かれます。提案されているSGXの制度が、SPACとその資金提供者にとって魅力的であり続けながら、十分に脆弱さを克服するものであるという適切なバランスをとることができているかについては、いまだ結論が出ていません。


デントンズ・ロダイク法律事務所は、本稿執筆に協力してくれたアソシエイトMr. Ian Lowに対し感謝申し上げます。


【日本語版翻訳】デントンズ・ロダイク法律事務所
シンガポール国弁護士Ng Sook Zhen / ン・スジェン
日本国弁護士 Yasuhiko Tanabe / 田辺泰彦 (現在弊所に出向中)

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